第九回:「中の池グラウンド」

登場人物
蛍子
智美

中の池グラウンドはわがチームのホームグラウンドだ。
端から端までダッシュすることとど真ん中で寝ることが好きだった。
近くには噴水があり、そこで足を洗ったり、暑い時には水を浴びていた。
この周辺をただぐるぐる走ることも好きだった。ひたすら走る。

ト、智美と蛍子が座っている。智美は子供に手を振る。

蛍子:来ました?

智美:ん?来て、ない。

蛍子:そうですか。・・・・・・。

ト、ジョギングしている人が通り過ぎる。子供のユーモラスなしぐさを見て笑う智美

智美:はは(笑)。子供って、いいものよねえ。

蛍子:正しい子供論しませんか?

智美:ええ?

ト、微笑む智美

蛍子:あの、正しい子供論。

智美:うん。子供論・・・・・・。うん。子供ってああやって、

蛍子:無邪気に遊ぶのが、

智美:正しい姿、

蛍子:ですよね。

智美:そうね。ああ、・・・・・・、

蛍子:お受験だ何だって無理やり勉強させたりするのは・・・、

ト、智美はサッカーの試合の方をみる。

智美:反対!

ト、手を上げる智美。

蛍子:そう、ですよね。

ト、蛍子もサッカーの試合の方を見る。

智美:でも学ばせることは、とても大事。

蛍子:はい。

智美:子供ってね、何でもかんでも質問してくるのよ。生きてるってなあに?とか、子供はどこから生まれてくるのー?とか。

蛍子:ほーう。どう答えるんですか。

智美:さあ。あなたならどう答える?

蛍子:・・・・・・。

智美:そして、何でもできると思っている。

蛍子:うん。

智美:ゆうのようにね。

ト、蛍子のほうに向き直る智美。

智美:・・・・・・。

蛍子:・・・・・・・。

智美:あの人とはもぅ、お互い卒業だったの。

蛍子:はあ。はあ?

智美:うそうそ。私の方が中退、したのかな?おー!!

ト、サッカーの試合でゴールが決まったようだ。

蛍子:え?

智美:ふふ(笑)。一緒に机並べて勉強してたのに、ね。

蛍子:・・・・・・。

智美:でもあの人、たぶん留学したがってたの・・・・・・、行方、・・・わかってないの?
ト、蛍子はうなずく。

智美:たぶん、あの人自身、まだわかってないのね。道は見えてるのになあー・・・。

ト、蛍子の目を見つめる智美。

蛍子:あの、智美さんはゆうの、サッカーの試合とか観にいったりしました

智美:来て欲しがってたわね、でも・・・。

蛍子:行かなかった?

智美:だからここには来ないのよ。きっと。

蛍子:はいー。え?

智美:子供たち、楽しそう。

蛍子:でも、なんであんなに水が出ることだけで喜べるんでしょうね。

智美:まだ、よそ行きのいろんな服を、着てないのよ。濡れたら困るとか、先に考えないのね。

蛍子:なんか、よくわかんないけどナチュラルに楽しいっ、て感じ、ですね。

智美:それ、それよ、大事なのは。

蛍子:何がですか?

智美:自然体で楽しめること。

蛍子:はあ。

智美:あのとき、・・・・・・ああ、まちがっちゃった、って思っちゃってたのよね。

蛍子:・・・・・・・。

智美:間違ってなかったのだと思うんだけど。

蛍子:ええ、え?ええ。

智美:うん。

蛍子:はい。

智美:・・・・・・。

蛍子:・・・・・・。

ト、智美はお腹を触る。

蛍子:おめでとうございます。

智美:ありがとう。

蛍子:哲生さんもちゃんと働くのが板についてきたし。

智美:ええ。

蛍子:結構スーツが似合ってましたね。

智美:会ったの?結構女子高生にもてるみたいよ。ゆうもだったけど。

蛍子:塾時代ですか?

智美:あなたにももててよかった。

蛍子:はい?

智美:いい人に出合ったと思う。あの人。

ト、蛍子を見る智美。蛍子は噴水の虹を見つめている。

蛍子:今回、なんかゆうを取り巻くいろんな人の証言っていうか、話を聞いててとっても面白かったんです。智美さんも含めて。

ト、智美を見てにこっと笑う蛍子。

蛍子:ちょっぴり不思議な気持ちになりました。何か楽しいっていうか、幸せって言うか・・・。

智美:へえー。そういう努力は足りなかったかも。

蛍子:どう・・・いう?

智美:知ろうとするってことかな・・・。

蛍子:はあー。そんな努力はしてないんですけどね。結果的にそうなったような気がしないでもないと言うか・・・。

   とにかくゆうを見かけたら私に電話くださいって伝えてください。

智美:はい。・・・・・・、私は明日は動物園に行くけど、あそこならひょっとしたら・・・。

蛍子:?

智美:思い出の場所回ってるんでしょ。さっき、そう言ってた。

蛍子:そう、みたいです。

智美:あ、それなら、牧高周辺もいってきたら?

蛍子:智美さんたちの母校ですよね?

智美:そうよ。時々遊びに行きたくなるって昔言ってた。大学ぐらいかなあ。

蛍子:そんなこと私には一言も。

智美:あ、同じサークルだったのよねえ。・・・そりゃ牧高っていってわかんないからでしょ。

ト、蛍子の肩に手を置く智美。

蛍子:でも、そういえば、大学時代こっちで練習あったとき、生まれた病院とかの近くに練習サボって行ってはりました。

智美:へえー。ふふ。

蛍子:そう、です!です。・・・とりあえず、動物園に行きます。

智美:え?

蛍子:連れて行かれたことありますし。

智美:そう。あなたも。あそこ不思議で面白いわよね。ヤギがぬベーっト。

蛍子:そうそう、そうですよね。あの九官鳥がまた・・・。とにかく、

智美:とにかく?

蛍子:ゆうに会ったらとにかく電話するように言って下さい。

智美:帰るべき所に帰りなさい、っていうわ。

蛍子:いや、あ、まだ、そんなんじゃ、ないん・・・です。けど。

ト、微笑む智美、お辞儀して去る蛍子。