第十一回:「男山レクレーションセンター(八幡)」
■登場人物
ゆう
智美
哲生
プロローグ;展望台
ト、智美が座って星を眺めている。智美が目をやる視線の先には、ゆう。
ゆう:よいっしょ。
智美:こんばんわ、おじいさん。
ゆう:はっはー。まだまだ座ったりはしませんよ、おばあさん。
智美:そういうふうに、・・・なるまで一緒に・・・・・。
ト、ゆうは空を見ている。星を数えている
ゆう:1,2,3,4、・・・・・
ト、途中から智美を見る。
智美:あ・・・・・・。
ト、智美は空を指差す。二人並ぶ。
昔、この野球場でヒットを打ったときはうれしかった。というか、何で打てたんだろう。いまだにわからない。なぞだ。
今じゃバッティングセンターでも打てないのに。
この男山レクレーションセンターに高二から高三になる春休みにクラスのみんなでキャンプに行った。
ログハウスに泊まったりした。一日目は俺はなぜか熱を出して、智美に看病された。
2日目はなぜか、一つのログハウス自体がまるまる俺と智美のものになった。
結局深夜二人で抜け出して展望台で星を見た。
ト、野球場をフェンス越しに観ている哲生がいる。後ろからゆうが来ている。ゆうは座席に座った。
ゆう:よう、
哲生:・・・・・・。おう。遅いぞ・・・。
ト、哲生は振り返り。ゆうの二段下に座る。
哲生:・・・・・・、おまえ、元気か?
ゆう:ああ、ばっちりだ。照り、すごいなあ。
哲生:ああ、まだまだお日さん力いっぱいかがやいとる。
ゆう:おう、俺とおんなじくらいなあ。
哲生:そうか、そりゃあ、良かった。
ト、ゆうは展望台を見つめる。
ゆう:そっちは二人目か。リッチだなあ。
哲生:幸せのバブリー状態。
ト、ゆうは哲生を見る。全身をまじまじと見る。近づいて手を取る。離して少しはなれたところでフェンス沿いにならぶ。
ゆう:あのさあ、・・・お前智美と結婚するときってすぐやったやん?
哲生:ええ?・・・ああ。・・・
ゆう:あれは・・・・・・
哲生:え?
ゆう:なんで、そんな、早い・・・・・・
哲生:ああ、・・・そりゃあなあ。多少の覚悟は決めたけど。
ゆう:成り行きか?
哲生:それはない。
ゆう:・・・・・・
哲生:ないなー・・・。
ゆう:芝居のこととか・・・。
哲生:あんときは、すでに際やってん。もう・・・かなあって。
ゆう:・・・・・・そうかぁ?・・・。
哲生:それに・・・、ちっちゃいころの夢の一つは思いがけず手に入ったからな。
聖書ん中のたとえ話で、価値のきわめて高い真珠を見つけた真珠商人がどうしたか知ってるやろ?
ゆう:全財産を突っ込んだ。すぐさま。
哲生:そういうことや。・・・きわっきわの決断や。
ゆう:・・・・・・そうか。全力か?
哲生:全身全霊、そんで永久やな。永久の誓いやで。めちゃしんどいさ。
ゆう:そう、やな。
哲生:なんで?
ゆう:ん?
哲生:いや・・・、・・・・小泉か?
ゆう:ん?・・・ああ、まあ・・・、・・・。立地かなあ。
哲生:え?
ゆう:いや、俺らの違い。
哲生:へ?
ゆう:北団と樋上。
哲生:いや、河川敷に行くのは俺たちの方が近かったけど、そっちは学校が近かった。だから引き分け。
ゆう:ああ、たぶん、学校が始まってから、はな。
哲生:何が?
ゆう:いや・・・・・・、あの展望台から見えるかなあ?俺たちの団地。
哲生:あの展望台かあ、行って見るか?
ゆう:いや、いい。あそこにはなあ、・・・女の子と一緒に行ったきれいな思い出があるから、お前となんかいっけねえっよ。
哲生:ん?
ゆう:いやあ、静たち見てるとなあ、・・・結局小さいころのまんま大きくなって、・・・でもそれが一等幸せそうで。
ト、微笑むゆう
哲生:・・・・・・・・・・・・・。
ゆう:おれは幸せ満開だぜ。世間的には失業者だが、フリーだ。すべてからフリーだ。
哲生:やっぱいろいろ、きついんか?
ゆう:おれには、多少困難がないとなあ、燃えへんし。
哲生:おまえは、必ず、やれるよ。
ゆう:・・・・・・。何が?
哲生:・・・・・・なんか。
ゆう:はは、・・・相変わらず根拠ないものいい、やな。でも、何かうれしいわ。
哲生:うちの塾の講師に、とりあえず舞い戻るか?
ゆう:いや、冒険したいし、少し意地を張りつつ、またどっかに雇われるかも。でも職はもうかえへん、ていうか変えられへんなあ。
哲生:そうか・・・・・・。
ゆう:心配すんな、おれは楠木悠やぞ。
哲生:、おう。
ト、蛍子がレクレーションセンターを訪れる。
蛍子:・・・・・・!
ゆう:おう、・・・・・・元気か?
ト、ゆうはまぶしそうに目を細める。
蛍子:・・・・・・・だい、じょぶ
ト、蛍子の声は途中で途切れる。
ゆう:あの、さあ、・・・明日・・・、例のとこで会わないか?
蛍子:え?
ゆう:非常時の・・・
蛍子:???
ゆう:あの最後のデート場所な・・・・。
ト、ゆうは、歩き去る。取り残される蛍子と哲生。
哲生:ひさしぶりにあったんだからゆっくり話せばいいのにな・・・。
蛍子:・・・・・・。
哲生:おれは、・・・・・・ちゃんと消えるのに。
蛍子:・・・・・・?・・・・・・あ、
哲生:ん?
蛍子:大丈夫。・・・哲生にそれぐらいのデリカシーがあることは分かってる。
哲生:おまえ。
ト、蛍子は哲生に笑って身を翻す。日が暮れ行く。
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